"純粋さ"と"愛着"が原点。
- Yuta Ichikawa
- 5月5日
- 読了時間: 5分
更新日:5月6日
「どうして書家になったんですか?」
初対面の方からは、ほぼ100%尋ねられます。笑
「子どもの時からずっと、文字を書くことが好きだったからです!」
いつもこう答えます。
でも、時に「なぜ自分は文字を書くことが好きになったのだろう?」と思うのです。
気付いたら、好きだった。
ここに明確な理由はいらないのかもしれませんが
その「好き!」のヒントは、もしかしたら
書家としてお仕事させていただく中で出会った
子どもたちと過ごす時間にあるのではないかとふと思いました。
子どもたちと一緒に書をしていると、その度にたくさんの発見があります。
今回は、子どもたちとのエピソードも交えて、書への想いを綴ります。

書きたい字を、書きたいように。
ある日、とあるご兄弟のお兄さんに書を教えていたら、
当時小学2年生だった弟の I くんも「書いてみたい!」と声をかけてくれました。
その前向きな想いが嬉しくて、何を書くのかただ見守っていると、
「最近習った漢字なんだー!」
「キーホルダーにしてお父さんとお母さんに贈りたい!」
と、あっという間に素敵な作品たちが出来上がっていき、
その様子にご両親も、そして僕も、ついつい感動して見惚れてました。

子どもならではの表現力。
おそらく、大人にはこの純粋な表現はできない。
しかしながら、I くんはあまり納得いかない様子。
理由を聞いてみると「もっとかっこよく書きたかった」とのこと。なんてストイック。
「こうなりたい!」「こういう字が書きたい!」
という気持ちが嬉しいですよね。応援したくなる。
後日、また書をやってみようという機会があり
せっかくなので前回の作品たちの続きのようなイメージで
そして、小学3年生の書写の授業も見据えて
「筆でかっこいい線を書くための直線の書き方」から教えることに。

だんだんとしっかりとした線が書けるように・・・!
こういった基礎・基本って「やらせる・やらされる」になりがちですよね。
「やりたい!」から後押しできると
始めのなかなかうまくいかないところも、楽しみながら取り組めます。
前回の続きということもあり「かっこいい字を書きたい!」という
ストイックなスイッチが入るととにかく吸収が早い I くんは
少し後押ししただけでみるみる成長。
線の書き方をある程度理解したところで、
最後に鍛えた直線で「王」と書いてもらいました!
真剣な良い表情。立派な直線が書けました◎

これからも「書きたい!」という純粋な想いを持ち続けてほしいですし
引き続きその後押しをしていきたいですね!
家族みんなで、初の書体験・・・!
2024年1月に東京・押上のカフェ「HaydEn」様にて開催した個展「流轉」。
カフェの広々とした店内の空間も活かして、書作品の展示のほかに
気軽に書を体験できる「水書き」ブースも用意しており
特にお子様連れのお客様にご好評いただいておりました。
中でも特に印象的だったのが、当時2歳の娘さんをお連れいただいたご夫婦。
展示もご覧いただいた後、せっかくなのでみんなで書を体験してみることに!
娘さんにとっては、大きな筆で床に書くなど初めて見る光景ばかり。
緊張してしまったのか、最初は泣いちゃいました。
そこで、娘さんが大好きだと言う「アンパンマン」を描いてみせてみると、泣き止んで、少し興味を持ってくれたみたい…!

それでもまだ緊張は解けず、まずはお父さんに、娘さんのお名前を書いていただきました!

お父さん、なかなかお上手◎
その後、お名前の由来など、娘さんについてゆっくりお話を伺っていたら、
さっきまで緊張していたはずの娘さんが筆を手に取り、
おもむろに書いてくれました…!!

初めての書道体験の瞬間。
それは、ふと緊張が解かれ、言葉にならなくても
「やってみたい!」と身体が自然と動いた瞬間。
この素朴な興味や好奇心を引き出し、
その人らしい "表現" や "好き!"のきっかけをつくるお手伝いをしていきたい。
「書いてもいいんだ!」「書くって楽しい!」って
ほんの少しでも思ってくれていたら、あるいは
思い出してくれる瞬間があれば、嬉しいな。
「楽しい!」と思うことが、自分の書の原動力。
子どもたちと一緒に書をしていると、
そのパワフルな表現力と成長の早さにはいつも驚かされます。
「好き!」「やりたい!」という純粋な想いが、
表情からも感じられることがとにかく嬉しいですし、後押ししたいと思うのです。
振り返れば僕の幼少期は、みんなが外で遊ぶ中、なぜか部屋の隅っこでひとり
ひたすら漢字を書いていたというちょっと不思議な子でした。
きっと周りの大人は多少心配していたと思いますが(笑)
先生も親も「男の子は外で元気に遊ぶべき」ということは言わずに
ただ見守り、時に褒めて伸ばしてくれたことが
書いてていいんだ!という安心感と
書くのが好き!自分の字が好き!という純粋な想いに繋がり、
それが、いまの自分をつくっているのだと思います。
書においても、基礎・基本はもちろん重要ですが、まずは純粋に
「書って楽しい!」
と気軽に思えることが大事だと僕は思います。
書といっても色んな楽しさがあって、それは「書く」だけではなく、
「見る」「感じる」「(道具や言葉の意味、歴史を)知る」など、
楽しみ方は人それぞれ。
子どもと一緒に書をするたび、自分の原点である
「愛着を持って純粋に、書を楽しむ」
ことを思い出させてくれます。
書家となってからは、書くということはもちろん、
「墨で心を表現する」ことの楽しさに目覚め、ひとりでも多くの方に
想いが伝わるような作品を創りたいと思っています。
